この夫婦、仲が良くない。
子供が3人もいるのだが、日本人の夫は40代後半、奥さんは3つ年下の韓国人。
夫はいわば昭和の男で、仕事に対する責任感があって家庭では亭主関白ぎみ。韓国人の夫人はそんな夫に対して言いたいことがあまり言えない。
しかしこの韓国の女性は強いので、たまに爆発すると激しい口喧嘩となる。日韓の歴史的軋轢をこの夫婦が代表しているかのように相手を受け入れない。
そういうわけで夫婦仲はお世辞にも良いと言えない。
この夫婦が絵画展の会場に来た。
婦人が欲しそうな絵があった。フクロウの家族が寄り添った絵だった。
●フクロウの画家
作家はキューテー・キム、韓国生まれで、30代で結婚してすぐブラジル移民となる。
水墨画の画家として、ブラジル国立博物館での展覧会やサンパウロにあるITU大学で教鞭をとったりして活躍した。その後、ブラジル・韓国・日本を活動の舞台として10年くらい日本に居住。今は韓国を拠点として作家活動をしているが、家族は15年ほど前にブラジルからアメリカに移住した。
画風は紙に水墨に淡彩というスタイルから、ブラジル時代にあることをきっかけに東洋思想に基づいた原色が画面に急展開するようになった。モチーフとしては風景の中にフクロウが多く登場する。
水墨画時代は伝統的な東洋画であったが、原色が登場するようになってからはナイーフ(素朴派)と言ってよい画風になった。
ここ1年くらいは、キャンバス地にアクリル絵の具で描く西洋画のスタイルを取っているが、フクロウは健在だ。
キム画伯がフクロウをよく描くようになったのは、かつてKBSのドギュメンタリ―番組でフクロウの家族愛を見て感動したことがあり、それからだという。
ちなみにフクロウはブラジルでも縁起物らしい。
■キューテー・キム「フクロウ家族」2F キャンバスにアクリル絵の具
先の韓国人の夫人は、キム画伯の絵に寄り添って描かれているつがいのフクロウに自分の理想をみたようだ。
家族というものは近い関係ゆえに相手に要求することも多い。それが満たされないと相手に対する不満が生まれたりする。
この夫婦もそうしたことの積み重ねから仲が悪いのだが、本当はもっと仲良く生きてゆきたい。それが本心だろう。
夫人は思い切って夫に訊ねた。「買うとしたらどれがいい?」
夫は、慎重に一点一点をみていたが、「そうだな。これかな?」と一点の絵を指さした、
それは夫人も気に入っていた仲良く寄り添うつがいのフクロウの絵だった。
絵画は、ある意味で心の鏡だ。しかも自分自身でも自覚できない潜在意識まで映し出される。その絵にはこの夫婦が本来願っている理想が描かれていたのだ。
夫人は夫の反応に勇気を得て「これ、買いましょう!!」
夫は、しばらく考えて、さらに他の絵も再び見始めた。そして「やっぱりっこれか」
夫婦にとってはじめての絵画購入だった。
それから1年後の絵画展で、この夫婦が再び来場してまたフクロウの絵を買った。
「家の中に飾って見て、ますますこの絵はいいなと思えるようになったんです」と夫。
一緒に来場していたこの夫婦の友達の婦人が、口をはさんできた。
「絵を買ってから夫婦仲が激変したみたい。奥さんなんか子供たちの前でも『パパ・大好き』と言ってご主人にスリスリと頬ずりするみたいよ」
茶化されて夫は恥ずかしそうにしていたが、まんざらでもない。
絵に見出された理想がこのご夫妻の潜在意識に落とし込まれたに違いない。それで現実が変化する。
夫妻はその後キム画伯の絵を全部で8点購入している。
もちろんフクロウ入りだ。
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